般若が原(はんにゃがはら)
伝説の地(豊和地区飯塚)
昔、飯塚村に新兵衛という者がいて、飯高村の妙見様(みょうけんさま)から、本尊の妙見尊像(そんぞう)を盗み出した。その尊像は小さかったので抱きかかえて運び出せた。
村境の般若が原まで来たところ、妙見尊像が急に重くなり、押しつぶされそうになった。仕方がなく、新兵衛は地面に置いた。さあ大変。押しても引いても、尊像はビクとも動かない。まるで、大きな根が生えているようだ。
そして、それまで気がつかなかったが、尊像の目からは、光が放たれていた。
新兵衛は、うす気味悪かったが、せっかく盗み出したのにと困ってしまった。そこで、
考えた末、
「妙見尊像を渡すので、般若が原まで金を持って来い」
と飯高村へ手紙を出した。
飯高村では、尊像が盗まれたというので、大さわぎになっていた。
手紙を受け取るや、村中で相談して、一番勇気があり、力の強い鎌形雷助(かまがたらいすけ)を使者として遣(つか)わすことにした。
雷助は、般若が原に着くと、一刀すらりと抜いて、太刀の切先から鍔元(つばもと)まで、小判を並べて新兵衛の前に突き出した。
新兵衛もさる者、着物のえりを開いて腹がけの隠しを見せ、
「これへ、入れろ!」
と腹を突き出した。 雷助は、刀を腹につき刺すように、腹がけの中へ小判を入れた。
雷助は、首尾よく妙見尊像を受け取って妙見様に納めた。それにしても、動かなくなった妙見尊像が、雷助の手で軽がると持ち帰れたのも不思議なことだ。
一方、新兵衛は腹がけに小判がザクザク。うまくやったつもりが、家に帰ってみたら一枚もなかったそうだ。これもまた、不思議な話である。
原話 八日市場市の沿革と人物
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