伝説の地(椿海「ちんかい」地区) 

  その(一)

 昔々、大きな椿の木があった。その椿の木の樹令は、八十万八十年と言われ、春になって花が咲くと、紅(べに)の花のために、天がまっ赤になり、やがてその花びらが散ると、またそのあたり一面はまっ赤な錦(にしき)をしきつめたようになったと言われている。この老大木が枯れ果てて、残った根の跡がこの椿湖(つばきのみずうみ)だということだ。


 朝日新聞 S30・3・30

  その(二)

 遠い昔、海上(うなかみ)、匝瑳(そうさ)、香取(かとり)の三郡にまたがる枝をもった大きな椿の木があった。この木は、猿田彦命(さるだひこのみこと)が国を分ける時に、国境に植えたものだったと伝えられている。日本の三大木の一つにあげられているだけあって、いつも天上には雲や霞(かすみ)がかかり、昼でも夜のように暗かったそうだ。

 鬼満国(おにまんごく)の魔王は、日本の国を滅ぼして、自分の国にしようと、この椿の木に住みついて長い間狙っていた。そこで、海上の国におった猿田彦命は、香取の経津主命(ふつぬしのみこと)、鹿島の建御雷命(たけみかずちのみこと)の力をかりて、魔王を退治することにした。

 さっそく、二神は魔王に戦いを挑んで、天の鹿島弓(かしまゆみ)という力の強い弓に、天の羽々矢(ははや)という羽の広い大きな矢をつがえ、魔王目掛けて

 「ビューン」、「ビューン」

と射った。

 不意をつかれた魔王は、初め慌てていたが、もともと力の強い奴

 「ウォーツ」、「ウォーツ」

と唸(うな)りながら、椿の木を抱え込んで揺った。

 「わさ、わさ、わさ、わせ」

木が動くたびに、天と地が引っくり返りそうに揺れた。

 香取、鹿島の神様も負けてはいない。天の羽々矢を打ち続けた。魔王は、堪(たま)らず椿の木を根こそぎ引っくり返して、東の海へ飛び去ってしまった。

 そして、椿の木が抜けた跡に水が溜まり、大きな湖となり、それが椿の湖と言われるようになった。椿の木が倒れた方向によって、上の方が上総(かずさ)、下の方が下総(しもふさ)と呼ばれている。現在の旭市に矢指(やさし)という地名があるが、魔王を退治した天の羽々矢が飛んでいった方向だと言われている。

 見事に魔王を退治した香取、鹿島の二神は、これよりこの地方の守護神として崇(あが)められるようになった。


原話 千葉のむかし話、朝日新聞、八日市場市の沿革と人物


◇今から約330余年前に『椿の海』が干拓され、『干潟八万石』と

  呼ばれる広大な田園地帯が広がる。

(平成17年6月/豊和地区飯塚から撮影)